答弁書で政府はまず、「日本円での返金はどのような法律関係に基づき行われるものか現時点で明らかではないことから、課税関係についても一概に答えるのは困難」とした。
その上で、「一般論として、損害賠償金として支払われる金銭であっても、本来、所得となるべきもの、または、得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、非課税所得にはならないと考える」と答えた。
●補償金は課税対象と考えた方がよさそう・・・政府答弁は前進
「得べかりし利益」とは、不法行為や債務不履行がなければ本来取得できたはずの利益のことで逸失利益とも言われる。かみ砕くと、「損害賠償金だとしても本来は所得とすべきものや、本来取得できたはずの利益への賠償であれば、課税対象になりうる」ということだ。
弁護士ドットコムニュースの取材に対し、国税庁は2月1日、「コインチェックの発表や各種報道により今回の事象が発生したことは承知しているが、いつ、どのような形で補償されるか確定的ではなく、現時点で方針を決めることはできない」(個人課税課)と回答していた。今回の政府答弁は、その時よりも前進した回答だといえる。
コインチェックは流出被害にあったNEM保有者約26万人に対し、補償として、総額約460億円の日本円を返金する方針を表明しているが、補償時期は明らかにしていない。
●「強制的な利益確定」である点は実質的に変わらず
専門家は今回の政府見解をどう捉えているか。山本邦人税理士は、『一般論という断りがありますが、「損害賠償金として支払われる金銭であっても、本来、所得となるべきもの、または、得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、非課税所得にはならないと考える」という見解から解釈すると、以下のように考えられます」と話す。
単純化してみる。100円で仮想通貨を購入し、1,000円に値上がりしていた時に盗難被害にあい、その後に800円の賠償金をもらった場合、盗難時の利益は900円で、盗難された1,000円を損失とみることができる。賠償金として800円をもらうとすれば、課税所得は以下のとおり計算されるという。
900円(盗難時の利益)-1,000円(損失)+800円(賠償金)=700円(課税所得)
一方、900円で仮想通貨を購入し、1,000円に値上がりしていた時に盗難され、その後に800円の賠償金をもらった場合ならどうか。
100円(盗難時の利益)-1,000円(損失)+800円(賠償金)=△100円(課税所得)
そうすると、下の場合は課税所得がマイナスなので非課税となり、上の場合に課税される。考え方を整理すると以下のとおりだという。
(1)盗難された時点で「所得となるべきもの、または、得べかりし利益」が確定する
(2)盗難された資産を損失とし、雑損控除か雑所得の必要経費として(1)から差し引く
(3)賠償金を受けとった時は、課税所得に含める
この見解の場合、賠償金が仮に出なかった時には納税義務が課されないため、被害者を保護するという利点があるという。しかし、山本税理士は「盗難により、強制的な利益確定になるという結果については、この見解においても実質的に変わりはないようです」と指摘する。
2018年03月06日 09時01分
弁護士ドットコムニュース
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