「捜査を担当するのは、警視庁生活安全部のサイバー犯罪対策課です」
と、警視庁担当記者。
「不正流出を企てたハッカーは、検索エンジンには引っかからないサイトで、NEMを他の仮想通貨に交換しています。犯人はそうした匿名性の高い通信技術を用いているので、特定が極めて困難。犯人逮捕という意味で、捜査は迷宮入りを余儀なくされています」
海外のサーバーや暗号化ツールを幾重にも噛ませられると、手も足も出なくなる。2010年のことではあるが、警視庁公安部外事第三課の機密資料がインターネットに流出した事件をご記憶の方は少なくなかろう。
「外事三課の時は内部資料の流出でしたから、今回とは比べようもなく痛かった。もっとも、CC社の件は金額が600億円に迫るほど多額で、世間に与えたインパクトも大きい。この事件を放置することは国民感情が許さない。そこで警視庁は、和田晃一良(こういちろう)社長の身柄を取れないか、検討を始めています。和田社長は3食コンビニ弁当でも良いくらいの人間で、私腹を肥やした形跡はない。で、容疑については、改正資金決済法の違反が有力です」(同)
この記者は弥縫(びほう)策に過ぎないと苦笑するのだが、それはともかく、改正資金決済法とは仮想通貨利用者の保護を目的とする法律。14年に発生したマウントゴックス事件を機に改正されたものだ。
破綻はまぬかれない
そのなかには、仮想通貨業者と利用者の資金を分別して管理する義務が定められており、これに違反すると、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処すとある。さる捜査関係者によると、
「実際、資金を分けて管理していなかった疑いがあります。仮に和田社長が逮捕されれば、CC社が申請中の仮想通貨交換業者登録も金融庁が却下する公算が高く、業務の再開もできなくなります。となると、マウントゴックスの時のように破綻はまぬかれません」(同)
「億り人」にしろ、誰であれ、当事者が聞くとゾッとするようなシナリオではないか。というのも、彼らが気を揉んでいるのは、この一点に他ならないのだから。
「NEMに入れたカネがどれだけ戻ってくるか」
ITジャーナリストの井上トシユキ氏によれば、
「CC社の大塚雄介取締役は今年1月、ある経済番組に出演した際に、月間の取引高が4兆円だと明かしています。CC社の売買手数料は他の取引所に比べて割高です。関係者によると、“手数料収入だけでも月に1000億円はくだらない”ということでした」
和田、大塚の両名はCC社の株式の過半を保有する。その手数料収入が事実なら、580億円相当のNEMを全額補償することなど、そう難しいことではなさそうだが……。
「CC社は、手数料収入を自ら仮想通貨に投資してしまっている可能性がある。つまり、CC社の口座には現金がそれほど残っていないかもしれませんね」(先の記者)
戻ってくるカネが「限りなくゼロに近いブルー」。
「週刊新潮」2018年3月15日号 掲載
新潮社
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180315-00539239-shincho-soci