主観的幸福感は、生活に対する満足度の高さと、ポジティブまたはネガティブな感情を抱く頻度をもとに測られる。その結果は、予想通りと言えるが、収入が高い人ほど幸福感が大きいのに対し、収入の低い人のグループでは幸福感が小さい傾向があることがわかった。
収入が低いと、生活必需品の入手、適切な生活条件、医療、娯楽、経済的な安定といったものが制限され、それが幸福感に影響を及ぼす。だが、研究チームによれば、それだけでは、幸福感の社会経済的格差を完全には説明できないという。
この研究では、そうした幸福感の格差が、3種類の社会的比較のプロセスに起因する可能性があることも示されている。それらのプロセスが、自分自身や富についての印象に影響を与え、それがさらに幸福感に影響を及ぼしているという。
1. 主観的な社会経済状況
主観的な社会経済状況とは、コミュニティや社会における自身の社会的・経済的な地位に対する自己認識もしくは自己評価を指す。収入、教育、職業といった具体的な要素によって決まる客観的な社会経済状況とは異なり、主観的な社会経済状況は通常、個人の経験、他者との比較、文化や社会の規範などの要素に基づく。
研究チームによれば、主観的な社会経済状況の評価が低い人は、他者よりも機会や資産に恵まれていないと感じ、それが怒りやフラストレーションを生んでいる可能性があるという。
個人の主観的な社会経済状況は「上方比較」、つまり自分よりも上にいると見なす相手との比較に基づいていることが多い。そうした比較は、自身の環境改善のきっかけになることもあれば、ネガティブな自己認識や劣等感を招くこともある。
また、社会経済的に自分よりも劣っていると見なす相手と比較する「下方比較」が行われるケースもある。そうした比較は、良い暮らしをしているというポジティブな自己認識につながるが、だいたいにおいて役に立たない社会的行動だ。
2. 同等比較
「同等比較」とは、自分が現在置かれている社会経済的状況を、幼なじみ、年齢の近い家族、同級生といった自分と同じようなバックグラウンドをもつ他者と比較することである。研究チームによれば、同等比較は、幸福感に大きな影響を及ぼすが、これは、成長過程が似ているという認識に起因するという。
研究チームは、次のように書いている。「本研究の知見は、社会的比較理論の類似性仮説と合致している。つまり、自己の幸福を評価する際には、自分と類似した他者との比較をより重視する、という説だ」
人はしばしば、同等比較によって自身を評価する。この手の比較の方が、自分とは明らかに違う相手や、自分より上と見なす相手と自分を比較するよりも、苦痛が小さいことがわかっている。
研究チームの説明によれば、相手とじかに接触したり、近しい関係にあったりすると、社会的比較が煽られることがあるという。例えば、「取り残された」と感じたり、相手と同じ期間内に大きな成果を上げて当然だったのにと考えたりする。
その結果、自分は他者よりも成果をあげられていないと感じ、自己肯定感が損なわれ、それが幸福感に少なからぬ影響を与える。
自己肯定感は主に、人生をどう送ってきたかという自己評価に根ざしていることが多い。その点からすると、自分自身や自分が達成したことに対するポジティブな評価は、収入の水準にかかわらず、幸福に欠かせないものと考えられる。
■まとめ
「富だけでは幸福は保証されない」という考え方とは裏腹に、この研究では、社会的比較の結果として生まれる自己認識が、幸福という帰結をかたちづくる上で、重要な役割を果たすことが示されている。
所得不均衡についての対策は必要不可欠だが、その一方で、この研究の知見は、自己価値感の重要性が高いことも浮き彫りにしている。
自分を他者と比較して、どれだけ上か、どれだけ下か、それとも同等かを認識することは大きな問題ではなく、幸福につながる真のカギはどうやら、収入の増加のみならず、自分自身や、人生のあらゆる段階で自分が達成したことに対して、どれだけ価値を置くかという点にあるようだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/716261403335090a279921c44dd546da72c34c04