医療用・娯楽用大麻の合法化が進み、マジックマッシュルームなどの幻覚剤の治療薬としての効果が実証されるなど、ドラッグに関する認識は大きな転換点を迎えています。
とはいえ「全ドラッグの合法化」はさすがに無茶な逆張りにしか見えませんが、いったい研究者らは何を考えているのでしょうか。詳細は以下から。
ジャーナル「Drug Science, Policy and Law」に掲載された最新の論文によると、全ての違法ドラッグを合法化すればドラッグ関連の害悪をなくせるとのこと。
その理由は合法化で公的な規制を行えるようになり、安全問題を解決でき、依存症治療へのアクセスを拡大し、ブラックマーケットに関連する暴力を無くせるというものです。
これだけ言われてもご都合主義の絵空事にしか見えませんが、研究者らは4種類の薬物政策を比較して調査を行っています。見ていってみましょう。
◆現在、世界で主流の懲罰的なドラッグ政策
最初の政策は現在世界で広く取り入れられている懲罰的な対薬物法によるもの。
この政策は国連で1961年に採択された麻薬に関する単一条約により始まりましたが、現在までの60年間にドラッグの使用は増加し続けています。
こうした状況下で、ドラッグはより危険なものになりました。違法に売買されるため品質管理ができず、有毒な不純物や添加物が混ざり込んで過剰摂取による死亡事故を筆頭に、
多くの健康被害を引き起こしてきました。
また違法ドラッグを扱う犯罪組織が生まれて暴力の温床となる上に、ドラッグ流通網は武器や人身、臓器などの違法売買ルートとしても悪用されることになります。
なお、2011年6月には薬物政策国際委員会がドラッグ戦争に関し
「世界規模の薬物との戦争は、世界中の人々と社会に対して悲惨な結果をもたらし失敗に終わった」と敗北を宣言しています。
これ以降ドラッグ使用に厳罰を与える方針は見直されはじめ、犯罪としてよりも公衆衛生や健康・安全の問題だという視点が広がってゆきます。
同時に各国での大麻の合法化や幻覚剤の研究なども進展し、2020年には 国連が大麻を「最も危険な薬物」ランクから削除しました。
◆酒やタバコを含めた全ドラッグ禁止政策
研究者らは次に酒やタバコなどの合法「ドラッグ」にも禁止を拡大する政策についても調査。
これについては1920年代の米禁酒法が組織犯罪を激増させ、再度合法化に至った歴史から再度採用すべき方針ではないとあっさり結論付けています。
◆所持や使用に刑事罰を科さない非犯罪化政策
そして現在一部の国で始まったドラッグの所持や使用に刑事罰を科さず、前科を付けないで治療を勧める「非犯罪化」も吟味。
この政策ではドラッグの製造や販売は違法のままです。
これは薬物のリスクを最小化させ、健康被害を軽減させて社会復帰を目指す「ハームリダクション」という考え方にもとづくもの。
実際にポルトガルではこの政策が施行された2001年以降、逮捕ではなく依存症治療を受けられるようになって依存症患者数は減少の一途をたどっています。
ですが研究者らは、この「非犯罪化」はあくまで過渡的な政策だと指摘します。
それは所持や使用が認められても、製造や販売が違法ならブラックマーケットが存続するという矛盾を抱えるため。
◆すべてのドラッグの合法化政策
最終的に吟味されたのは、ドラッグの製造や販売を含めた全てを合法化するという政策です。
これはドラッグの合法市場を認めた上で公的に規制を敷くという、酒やタバコへの方針をドラッグ全般に広げるもので、ブラックマーケットを消滅させ、
国が品質や販売方法を規制・管理します。
これにより、当初合法大麻として登場した「危険ドラッグ」のような代替ドラッグや粗悪品を効果的に排除することに繋がります。
なお「合法化したらとんでもない無法状態になるのでは」という危惧に、研究者らは
「濃度100%の酒をコンビニで売れ」「就業時間中にも飲酒させろ」という主張が相手にされず、喫煙場所の限定も受け入れられる現状から可能性が薄いと主張します。
加えて世界で最も依存性の強い物質ベスト5の中にはヘロインやコカインと並び酒もタバコもランクインしており、「ハードドラッグは話が別」という問題でもありません。
前述したように、半世紀にわたるドラッグ戦争の失敗が確認され、これまでの方針が見直されているのが2021年の現状です。
それを踏まえて全てを机上に載せ、今後のドラッグ対策を真面目に議論すべきタイミングなのかもしれません。