4か月で約4兆円 加速する個人の“円売り”
新NISAは非課税の投資枠が最大1800万円にまで拡充され、岸田政権の目玉政策の一つとも言えますが、その開始とともに、日本国内から海外への資産流出が、急速に進んでいます。
財務省によると、2024年1月、投資信託委託会社による海外の株式や債券などへの投資は、過去最大となる約1.3兆円を記録しました。
また、2024年1月から4月の合計では、4兆円程度となっており、前年の2023年では、1年の合計額が、約4.5兆円だったことを踏まえると、このままのペースでいけば前年の約3倍に膨らむ可能性があります。
みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストである唐鎌大輔さんはその理由を「“家計部門の円売り”と呼んでいるけれども、日本人の円売りが効いてるんだろう」と説明します。
つまり、新NISAがきっかけとなり、価値が下がっている日本円を売って、より価値のある外貨に乗り換える動きが、日本の個人投資家の間で、加速しているというのです。
唐鎌さんは「個人投資家の円売りは、機関投資家に続く存在感として、今後、海外でも注目されてくる」と見ています。
新NISAが円安に拍車をかけているとの指摘について、大和証券チーフエコノミストの末廣徹さんは、「元々、NISAは将来、長いスパンでの資産形成のための制度なので、短期的な理由だけで悪いというのはよくない」と前置きしながらも、円安の急進は「副作用」だと指摘します。
また、その背景について「将来の不安から、みんながNISAを使って、かつ外貨に投資をするような形でそれがまた円安につながって、もっと不安になって…円を持っていることへの不安がスパイラル的に動いてしまっている」と説明します。
では果たして政府はこうした動きを予想できなかったのでしょうか?
みずほ銀行の唐鎌さんは、政府は新NISAをきっかけとした円安の加速を「予想できた」と話します。
というのも、日本人が国内の株を売って、海外の株を買う動きは既に2020年から出ていたというのです。
ただ、政府が「資産運用立国」の実現を掲げる中で、海外の株式に投資することに制限を設けることは難しかったのではないかと推察しています。
その上で、新NISAのあり方について「制度はシンプルな方が良いので、最初は何の制限もなく始まったことは『これはこれで正解だった』と思っている」としています。
大和証券の末廣さんも「日本人は投資に対する心理的ハードルが高いと言われていて、それをうまく解消するという意味では、かなりうまくいってる制度だと思う」と話します。
みずほ銀行の唐鎌さんは、円安抑止の“処方箋”の一つとして新NISAにおいて現在の「つみたて投資枠」と「成長投資枠」に加えて、「国内投資枠」を設置することを提案しています。
この「国内投資枠」に何かしらの優遇をつけることで、「将来的に家計から出てしまうであろう海外への流出を抑える効果があるのでは」と考えています。
日本のNISAがお手本としたイギリスのISAでは、同じ様な内容を含む改革案の検討が進んでいるということで、今後、前例になりうるか注目されています。