コロナ禍は私立大学業界をも直撃している。
2021年度入試の志願者数は、近年例を見ない大幅な減少となった。
正式な数字の発表は2~3カ月先と思われるが、大手予備校の推計では、私大全体の(併願を含む)延べ志願者数は前年度比10%以上減少した模様だ。
仮に10%以上の減少が公式に確認されれば、少なくとも1990年度以降の30年間では最大の落ち込みとなる。
では、なぜここまで大きく落ち込んだのか。要因は主に以下の2点だ。
まず2020年度入試では、文部科学省が翌21年度からの、英語の民間試験活用や記述式問題導入など新方式による「大学入試改革」実施の方針を示していた。
このため現役受験生が浪人となることを敬遠し、結果的に21年度入試では浪人生がかなり減少した。
さらに大きな影響を与えたとみられるのが、新型コロナウイルスだ。
まず地方の受験生が大都市で受験する場合、感染リスクが悩ましい。また仮に大都市の大学に入学できたとしても、待ち受けるのはオンライン授業だ。
これでは、受験生にとっては高い下宿代を払ってわざわざ大都市に行く必要はない。
また、コロナ禍の下ではアルバイトも困難で学費や生活費はほとんど賄えなくなる。
受験生の家計もコロナ禍で苦しい。これらの結果、多くの受験生が併願大学数削減や地元回帰に向かったというわけだ。
21年度入試では、志願者が青山学院大学のように前年度比約3割減となった大手私大もあるが、最も大きな影響を被ったのは中小私大だ。
大都市圏でも3割減はざらで、中には4~5割減の大学もあり、経営には大きな打撃だ。
中小私大は、文科省による16年度以降の「入学定員超過規制」強化によって、最近はかなり志願者が増えつつあった。
この規制は従来大手私大が入学定員を大幅に上回る志願者を入学させていたことを規制するもので、
違反大学に対しては補助金全額カットや学部学科新増設の不認可など、非常に厳しいペナルティが課されるものだ。
このため多くの大学がこれを順守し、結果的にかなりの志願者が中小私大に流れ、経営状況も一息つきつつあった。
だが、今回の志願者大幅減はこうしたムードを一変させた。
例えば大都市圏の某小規模大学。ここでは学生数減少によって数年前に教職員への賞与支給率を半減させた。
その後は上記規制の恩恵を受け入学者が増加していたため、昨年末まではこれを何とか復元させようと検討していた。
しかし、21年度入試では入学者が大きく減少したため、賞与支給率復元の話は一気に吹き飛び、理事長は「場合によっては今後、教職員の削減も考えねば」と暗い表情を隠せない。
(中略)
他方、少子化は従来の予測を遥かに上回る速度で進行している。
21年5月26日付日本経済新聞は、「少子化、コロナで加速」と題し、20年度の出生数が85.3万人と前年度比4.7%減少、
さらに「2021年の出生数は76.9万人まで激減する」との第一生命経済研究所・星野卓也主任エコノミストの予測を伝えている。
この水準はつい数年前までの100万人前後と比較すると、実に25%も減少する計算だ。
ここまで若年人口が減少すると、私大に限らず、幼小中高を含め多くの教育機関全体が厳しい経営難に陥る。
人口減少に応じた大学規模や経営の見直しが求められる。企業と同様、好景気の際に大きな改革を迫ることは難しいが、
厳しい状況だからこそ将来を見据え改革を断行すべきではないか。文科省はどこまで私学の経営に「大ナタ」を振るえるのか。その「本気度」が問われている。